『バカンス』で初の外部出演に挑む樺香(かこ)。稽古場での近況を聞くと、自分の成長も他者の姿も真っ直ぐに捉え、真っ直ぐに語る姿勢が誰よりも印象的だった。来年度で演劇三年目を迎える彼女は、今作で何を見いだしているのか。インタビューの一部始終を公開する。

（取材日：2023年3月17日）
（取材・文＝菅原茉利奈）

平野樺香です！

―――自己紹介をお願いします！

早大劇研[1]の2年代、平野樺香（ひらのかこ）です！本名の“樺香”という名前で活動しています。よろしくお願いします！理系の大学に行ってて、23年度で3年生になります。

――理系！演劇サークルでは少し珍しいですね。

数学とかは全然苦手で･･･その上試験当日に緊張しちゃって、めっちゃ簡単な問題が、そもそも公式が飛んじゃって！全部勘で埋めたら、いつもより20点も高くて(笑)！ショックを受けながら合格しました。

地方の志望校にも受かって、東京の大学とどちらに行くか迷っていたんですが、役者をやりたくてこちらを選びました。

――役者をやりたくて東京に。役者をやりたいと思ったきっかけをお聞きしたいです。

めっちゃ人見知りなんですけど、小学校の時に唯一褒めてもらえてたのが、放送委員会の読み聞かせだったんです。そこから朗読とか読み聞せをやるのがずっと好きでした。高校では放送部でラジオドラマや朗読をやってて。

自分の使える空間が広がったのかなと思います

――樺香さんとは新歓―劇研に入る直前、私が木霊の旧人、樺香さんは新入生という立場でお話しさせていただいたことがありました。個人的な印象で恐縮ですが、その時よりもオーラが一段明るくなったというか、波及力が増している気がします。

本当ですか！新歓期間に、劇研と木霊[2]のどちらに入るかめっちゃ迷っていて。方向性は違いますが、劇研も木霊も役者の体が凄く自由に動いているように見えて。

このどちらかに入れば、どうやったら体が動かせるか・綺麗に見えるかが分かると思っていました。

――なるほど。

放送部の朗読で、県大会までは行けるんですけど、全国大会にはギリ行けなかったり、制作部門では全国に行けても、個人の朗読になるとやっぱり全国に進めないことが多くて･･･。自信が全然無かったんです。しかも朗読って大体は立って読むんです。

――両手が塞がる！

そうなんです。左手に原稿、右手にストップウォッチで。声を出すことに重点が置かれるので、滑舌や発声はすごく身についたんですけど･･･いざ演劇をやってみようとなったとき体が動かせなかったんです。
だから、演劇を始めたことで自分の使える空間が広がったのかなと思います。
変わったって言ってもらえて凄く嬉しいです！

共感するって、多分身近じゃないとできないんだろうな

――今回の出演オファーを受けた際、主宰の瀧口さくらさんとはどんな話をしましたか？

私も女の子二人がメインの脚本を書いたことがあったんです。そのあらすじを劇研の同期に話してみた時は、ストーリーには納得はするけど、実感が沸かない・共感はできないかもしれない、みたいな感想が意外に多くて･･･。共感するって、多分身近じゃないとできないんだろうなって思ったんです。

――たしかに、納得することと共感することって別の感覚ですよね。

そんな中で『バカンス』のあらすじを聞いて、さくらさんにシンパシーを感じたんです。

私がさくらさんに共感できるってことは、きっと、私とさくらさんは似たような状況になったことがあるんだなと思って。嬉しかったりもして。そういう話をしたんです。それで関わってみたいなと思って、オファーを受けました。

人が好きで、その人の個性を愛せて、だから主宰ができるんだなと思います。

――さくらさんの演出はどんなところが特徴的だと思いますか？

『バカンス』の登場人物って、さくらさん自身の中の色んな部分を一個一個ちぎって創られたと思うんです。正直―さくらさんが分身して全部の役をやれば、十分に成立すると思うんですよ。それでも役者を集めて、その人の個性や癖を大事にしているのを見ると、さくらさんは人が好きなんだなと思います。

――詳しくお聞きしたいです。

演出家が役者をキャスティングするときって、演出家自身の体で表現できないことを役者にやってもらったり、その役者じゃないと出来ないことがあるから、その人を呼んでいることも多いと思うんです。だから、役者―演出家のすりあわせは言葉を介することが多いんですよ。

一方、さくらさんは自身も役者として凄く優秀な方で。言葉で説明した後で、「実際にやってみるね」と言っていきなりフルパワーで演技を見せてくれる･･･演技のスイッチの切り替えが凄く速い役者でもあると思います。

――凄い。軽く動いて見せられる人はいても、演出家の目線からすぐにフルスロットルで演技が出来る人はそんなに多くないですよね。

だからこそ、さくらさんが分身すれば『バカンス』は十二分に成立するなと思うんです。それでも役者を呼んで作品を創ることができるのは、ちゃんと人の良さを見つけられる人だからだと思います。きっと「自分がやったほうが早い」って思わないんだろうなって。

【インタビュー】樺香｜初の外部出演に挑む彼女が、自身と他者に見いだしたものとは「人が好きで、その人の個性を愛せて、だから主宰ができるんだなと思います。」