――もしよければ、卒業後の展望を聞かせてください。

卒業後も演劇活動は続けていこうと思います。というのも、正直まだ演劇との距離感を図りかねている部分もあって。役者をやるのは多分―もう今回が最後かなと思うのですが、「作品づくり」にはまだ取り憑かれていると感じています。

――今回はどんな役どころですか？

主人公の父親役で、物語が進むにつれてどんどん荒れていきます。自分はこうはならないぞと思いつつ、意外と彼の台詞に共感出来てしまう自分もいることにモヤっとすることもあります。

――特に意識していることや、苦労していることはありますか？

自分と大きく年齢が離れているので、台本にあるような姿になっているか、というのは苦労しています。数十歳も年の離れたキャラクターが抱える人生の重みや背景を探るのはやっぱり難しくて。演出家の指示と自分の考えを折衷しながらシーンをつくっています。

――2019年の『あく魔憑き』[5]でも父親の役を演じていましたね。

『あく魔憑き』も『バカンス』も、父親が荒んでいくことや、物語が娘目線で描かれるのは共通しているのですが。『バカンス』作品全体の“ポップさ”が少ない仕上がりで、前者に比べて痛みがカモフラージュされないんです。

――藤枝さんはどんな役者ですか？演技の面からお聞きしたいです。

うーん･･･一言で言うと「繊細」ですね･･･。

作り込みの部分ではまだまだ凄い役者さんが沢山いると思うんですけど、細かい所作や微細な感情の変化には、繊細に気づけていると自分では思っています。よく言えば繊細、悪く言えば･･･ナイーブすぎる。

――なるほど。では演技以外の面で意識していることはありますか？

まず、「役者に発展のない稽古場」は良くないと思っていて。そうならないように「アイデアを出す」というのが、役者の仕事の一つだと思っています。同時に、発見や発展の無い稽古場って「暗い稽古場」だと思っていて、そういうところで稽古をするのはあんまり好きじゃない･･･。

だから、稽古場を盛り上げたり、元気がなさそうな共演者に話しかけたりとか。稽古場での立ち振る舞いとしては意識しています。

――なるほど。明るい稽古場であれば、クリエイティブな稽古にもなりやすい。

役者がもたらすパワーって凄く大きいと思うんです。稽古に来てくれるだけで、一冊の台本に色んな変化やバリエーションをもたらしてくれる存在だと思います。だからこそ「YES＆DO」だけで稽古をしないことは一つ大事なことだと思っています。

――そういう稽古場の在り方を意識するきっかけがあったのでしょうか。

自分が木霊で新人担当[6]を務めたときに、新人と真摯に対話することを信条としていたんです。そのときに、一方通行の稽古場にしない・させないという意識が役者としても演出家としても大事なんだと気づきました。やっぱり演劇をつくるプロセスは人と人との対話の上で成り立っているから。

――「所信表明」を読んだ時の感想―あえて、藤枝さんからの批判をお聞きしたいです。

「演劇をお金にすること」の話なんですけど、僕らの周り―学生演劇の界隈には、「お金のことはどうでもいい」「収益のことは気にしない」という考えの人も沢山いると思います。「所信表明」に書いてあるお金の話は、あくまで役者を“職業”として捉えるための考え方だと思うので。

――そうだね。私もサークル公演でのノルマは「やりたいことをやるための材料費」と捉えていました。

学生演劇の外から見て「学生がそんなこと気にしてどうすんだ」って思う人もいるかもしれない。でもだからこそ、「気にして丁寧にやった結果、こんな公演に仕上がりました」というのを見てほしい。

僕が思っているのは、この公演がちゃんと成功すれば、（早稲田の）演劇界隈の空気が少し変わるんじゃないかって。僕らはもうサークルを卒団するけど、『バカンス』で成功したことや失敗したこと、挑戦したことのノウハウが次の世代に伝われば、界隈の空気を変えられるんじゃないかって思います。

――最後に宣伝のメッセージをお願いします！

はい！3月25日から27日まで、早稲田小劇場どらま館という場所で、早稲田大学演劇倶楽部企画公演『バカンス』という作品を上演します。

途中休憩を含む二幕もので、僕の役も途中で変わるのですが。全然違う役になるので、言うなれば僕のファン(笑)の方にはその変化を楽みながら観てもらえたらと思います。

観てくださる他の方に関しましても、創作プロセスの部分を含めてしっかり見ていただければと。見た上で、受け入れないというのも全然アリです。ですが、こういうプロセスをしているぞ、というのを見届けてくれたら。きっと何かしら刺激を与えられる公演になっていると思います。

[1] 「劇団木霊」･･･早稲田大学公認演劇サークルのひとつ。読み方は“げきだんこだま”。演劇研究会・舞台美術研究会と並んで大隈講堂裏に専用アトリエを備える。

[2] 「ナショナル・シアター・ライブ」･･･海外の傑作舞台作品を各国の映画館で上映するプロジェクト。2014年に日本上陸。「NTlive」と略されることもある。

[3]『レオポルトシュタット』･･･英国を代表する劇作家トム・ストッパードによる家族ドラマ。2020年1月にロンドンで世界初演。ナショナル・シアター・ライブでは、2023年1月に国内の映画館で上映した。

[4] 『かもめ』･･･ナショナル・シアター・ライブでは、ジェイミー・ロイド演出版を上映。ジェイミー版では、アーニャ・リースを脚本に起用し、アントン・チェーホフの古典戯曲を21世紀にアレンジしている。

[5] 『あく魔憑き』･･･劇団木霊2019年11月企画公演。公式サイト

[6] 「新人担当」･･･早稲田の演劇サークルには、初夏～秋にかけて「新人訓練」を実施する団体がある。その指揮をする人が「新人担当」と呼ばれる。「劇団木霊」もその一つで、藤枝・菅原は2021年に木霊で新人担当を務めた。ちなみに、その年の役者新人の一人が今作出演のきよすけである。

【インタビュー】藤枝拓磨は稽古場で何をするのか？対話とは何なのか？「演劇をつくるプロセスは人と人との対話の上で成り立っている。」