録音を聞き直すと、彼の喋り方が他の人と大きく異なることに気づかされる。

抑揚の付け方、間の取り方･･･きよすけの声は、彼の姿が目の前に浮かぶほど情報に富んでいる。そして、つい聞き入ってしまう面白さがある。舞台に立つと一層の軽やかさと重厚感を纏う彼は、『バカンス』と自身の役者としての在り方を真剣に語ってくれた。

（取材日：2023年3月22日）
（取材・文＝菅原茉利奈）

僕が最初に見た演技に立ち返ることができている

――まずは自己紹介をお願いします！

劇団木霊[1] のきよすけと申します。東京大学のシステム創成学科というところにいます。木霊では23年度で3年代になります。

――先週末は木霊の公演に出演して、すぐに『バカンス』ということで。

はい。木霊の『色々の季節』という公演に出させていただいて。2週間経ってないですね･･･？！昨日たまたま今までの台本を整理したんです。数えてみたら2022年度だけで8公演くらい役者で出させていただいて―嬉しいなと思います。

――本格的に役者をやるようになって2年ほどが経ち、今作はきよすけさんにとってどんな局面になりそうですか？

一番最初に好きになったのは「ハイバイ」[2]で、「青年団」[1]の作品も好きなんですけど。

ハイバイの、綺麗すぎる現代口語を現実の人間の汚さに寄せたような演技が俺はめっちゃ好きで。人間の上手くいかない部分をリアルに・ナチュラルな言葉でやってるのがすごいおもろくて。やりたいなと思って。それで（演劇を）始めたんですけど。

実際に早稲田で役者を始めてみたら、“舞台の上での演技”･･･を求める作品が多くて。

演劇を始める前に「おもろ～」って思っていた青年団やハイバイみたいな演技をやる機会はあんまりなかったんです。

――“舞台の上での演技”･･･客席に強く開かれた演技体ということ？

そうですね。特に木霊に入った当初はそれを感じることが多くて。以前は「台本があって、それをどう演じるか」という意識が強かったんですけど、早稲田で色々な公演に出させていただく中で、役者自身が表現したいものにもフォーカスを当てる創り方があるんだと分かって。一表現者として、役者の存在が確立されていると感じることが多くなりました。

――青年団やハイバイを連想するリアル・ナチュラルな演技体と、これまで使用した演技体はまた違ったものだった。

僕の体感でざっくり分けちゃってるんですけど･･･どっちも面白いなと思っています。それで言ったら今回の『バカンス』は前者に近い演技が求められていて、改めて僕が最初に見た演技に立ち返ることができているような感じがしているんです。難しさもありながら、凄く新鮮な気分で。「あ～！これ～！」と思いながら稽古をしています。

自分にしかできないことをやりたい、という気持ちがあって。

――きよすけさんはどんな役者ですか？

「何をやってもきよすけだね」ってよく言われるんです笑。役になりきる、のがあんまり得意じゃないと思うんですよ。でもまあ、なんていうか、良い意味で、「この人！」ってなるんじゃないですか。

――分かる！！

役者をやるときに意識していることがあって。

自分が役者としてオファーをいただいたなら、自分にしかできないことをやりたい、という気持ちがあって。

そうすると、役をやる上で、真実味を出そうとすると自分に近づいていっちゃうというか。

だって僕は僕として22年くらい生きてきたわけで、何ヶ月か稽古する役柄と比べたら、絶対二十数年生きてきた方が説得力あるから―どうしてもこうなっちゃうんですよね。

――そういう役づくりの人も大勢いるはずなんだけど･･･やっぱりきよすけは良い意味で「きよすけだ！」の感触が強いよね。

「出てえ～」ってなっちゃう

――この数年間、役者を辞めずに、絶えず舞台に立ってきた理由を聞きたいです。

まず、役者をやっているのが楽しいです。あと、早稲田界隈だけでも色んな作・演出をやっている人がいるので、僕もよく学内の公演を観に行くんです。そうすると「出てえ～」ってなっちゃう。「ここに俺がいたらどうなるんだろう」みたいなことをよく考える。

――共感です。その気持ちの連続なんですね。

さくらさんも、去年の秋に役者をされているのを観たんですけど、その後でさくらさんも僕が出ている公演を観に来てくださって。『バカンス』はそのときにお声がけいただいたんですよね。

――そうなんだ。

さくらさんは、僕が新入生の時に参加したエンクラの新歓WSでペアワークをしたことがあって。そのときに話したのを僕はすごく覚えていたんですよ。

――新歓で！どんな話をしたんですか？

好きな物と嫌いな物を言う場面があって。僕はトマトが嫌いって言ったんですけど、さくらさんもそれを覚えてくださっていたんです。その時から、さくらさんは凜とした印象―闘志燃える感じがしていました。

本当に風通しが良い、すっきりした稽古場です

――稽古場で他の人から刺激を受けることはありますか？

昨日、どらま館で最終通しをやったんです。僕は楽屋のモニターから舞台を見ていたんですけど、舞台上に笹倉さんと元木さんと川合さんがいて。で、そこに拓磨さんが出てきて。さくらさんも出てきて。「自分こんなところにいるのか･･･！」と改めて思いました。錚々たるメンバー、粒ぞろいで。

一人一人の意識の高さを凄く感じます。本当に台詞も動きも入るのが速くて、ミスも少なくて･･･プロ意識がある。

――その一方で、今回は座組の方がみんな伸び伸びと参加している印象があります。

そうですね。稽古場では、シーンを返すONも休憩時間のOFFも切り替えがはっきりしていて。どちらもリラックスして過ごせています。極度に緊張したり、失敗を畏れてびくびくすることもない。本当に風通しが良い、すっきりした稽古場です。

【インタビュー】きよすけ｜役者としての局面を語る「自分にしかできないことをやりたい」