『バカンス』出演者にインタビューをしていると、他の公演に比べて一層伸び伸びとした印象を受ける。もちろん真相は本人にしか分からないが、主宰/脚本演出の瀧口が理想とする稽古場の環境が実現されているのではないだろうか。

座組の輪から一歩離れて働きかけるのが、今回の主宰補佐・さとうのりかである。

他団体では“ハラスメント対策委員”・“第三者委員”とも呼ばれるであろう役割から気づいたことは何か。彼女に話を聞いた。

（取材日：2023年2月20日)
（写真＝あいざわ様）
（取材・文＝『バカンス』広報菅原茉利奈）

主宰の外付けハードディスクとか、もう一個の脳みそみたいな役割をしています

――では早速、自己紹介をお願いします。

『バカンス』主宰補佐のさとうのりかと申します。劇団森[1]の3年代で、大学では演劇を勉強しつつ、ジェンダーを副専攻として学んでます。他の公演では舞台監督補佐をたくさんやっていて、たまーに役者やったり演出やったりもします。

――今回は主宰補佐ということで、具体的な仕事内容を教えてください。

端的に言えば、主宰の外付けハードディスクとか、もう一個の脳みそみたいな役割をしています。具体的には「勉強会」[2]の内容を一緒に考えたり進行役をやったり、「ヒアリング」として役者個々人がどういうことを嫌と感じるか―言葉とか演出とか衣装とか観点が色々あると思うんですけど―稽古前に確認する面談のようなものをやりました。

――なるほど。「演出助手」や「企画監査」との違いは何ですか？

企画監査は「企画」全体を誰よりも外から俯瞰して意見を言う人かと思います。演出助手は、稽古日程を管理したり、プロンプを出したり･･･稽古を進める助手です。

――稽古場に行くこともありますか？

何度か行っていて、その時はあくまで第三者みたいな気持ちで居るようにしています。

主宰も所信表明の中で言っていたと思うんですけど、演劇って演出家から役者/スタッフへっていうトップダウンの構造が多いと思います。それをなんとか壊そう・変えようとしているのがこの企画で。そのときに、主宰に寄り添う立場の人が稽古場に一人増えたとてあまりプラスにはならないなあと思って。それよりかは、主宰からも一定の距離を取って稽古場にいる人として存在した方が、トップダウンの構造にちょっと働きかけることができるんじゃないかなって思っています。

それは回り回って作品の良さにも繋がっていくと思うので

――主宰補佐としての新しい発見についてお聞きしたくて。物語とか演劇的な側面での発見と、公演運営というハード面での発見をそれぞれ聞いてみたいです。

ヒアリングをする中で、色んな方の色んな思ってることや考えてることを聞くんですけど。みんな言わないだけですごい色んなことを考えてるし、実は嫌ってことも結構あるって気づいて。

例えば衣装を決めるときに、「こういう服苦手なんです」って伝えることってあんまり無いと思うんです。少なくとも今まで私が関わった現場ではそうだった。

――そうだね。基本的に演出家と衣装さんが衣装プランを組んで、衣装さんが買い集めてくださった衣装をそのまま着る。

でも実際に聞いてみると、「ハイネックにちょっと苦手意識がある」とか、他の人から見て普通のコーディネートでも、自分が着るのは苦手意識があるっていう人が結構いて。

みんな嫌な物・考えてることがたくさんあるから、それをちゃんと話しやすい環境を整えるだけで、もうちょっとやりやすくなるというか、もっと演出家と役者の関係も良くなるだろうなって。それは回り回って作品の良さにも繋がっていくと思うので。だから、端的に言えば、「みんな色々考えてるじゃん！」って！

好みの話だとしても、「好き」の反対は「嫌い」なわけで。

――役者の「嫌です」を伝えて良いのって、台詞や演出とかに限った物だと思い込んでいました。衣装にも言っていいことだというのがすごく新鮮に感じています。

それは思いますね。乱暴に見てしまえば、好みの話にもなってくるじゃないですか。だから私自身もこの仕事をする前は、衣装に対しての「嫌」って考えたことがなかったんですけど。でも、仕事を進めていくにつれてそうじゃないなと思って。好みの話だとしても、「好き」の反対は「嫌い」なわけで。「嫌い」なことを、たとえ作品のためであっても強制すべきじゃないなと思いました。

――嫌いなことを強制しない･･･言われてみれば当たり前のことですね。

もしそれでも、演出としてハイネックを着てもらわければいけない理由があるなら、相談しなければいけないと思います。別にハイネックじゃ無くてもいい場合って沢山あると思うんですよ。

工夫することで避けられる「嫌だな」があるんだと気づきましたし、それを知るためにはやっぱり話せる環境をつくる必要があるんだなって思いました。

新鮮でしたし、嬉しかった。

【インタビュー】さとうのりか｜「回り回って作品の良さにも繋がっていくと思うので」主宰補佐・さとうのりか が稽古場から一歩離れて見えたものとは

【インタビュー】さとうのりか｜「回り回って作品の良さにも繋がっていくと思うので」主宰補佐・さとうのりかが稽古場から一歩離れて見えたものとは